「もしもその二点が正しければ、事件は解決です」
「Pの妄想」(「アルファベット・パズラーズ」所収)大山誠一郎 東京創元社
東京、井の頭公園の近くに、<AHM>という四階建てのマンションがある。築十年の落ちついた雰囲気のマンションである。そして、最上階に住むオーナーの峰原のもとに集う、三人の同い年の男女。ミステリの翻訳を手がける翻訳家の奈良井明世、精神科医の竹野理絵、警視庁捜査一課の刑事後藤慎司。
「自分が毒殺されると思い込んでいる人に会ったこと、ある?」
ふとした問いかけから、四人は事件に関わりあってゆく。毒殺されると思い込んでいた女性が毒殺された。犯人は誰か? 指紋照合システムによって、出入りした人物ははっきりわかっているのに犯人を特定できない美術館の殺人事件、そして悲劇的な少年の誘拐殺人事件。ほとんどの場合、彼らは峰原の部屋から出ることはない。彼らがするのは、手に入れた情報を分析し、推理を働かせること。そしていつも、明快な回答を与えるのはオーナーの峰原だった――
連作短篇集。非常に凝った、それでいてすっきりした謎。特に目を引く(というか、うさんくさい)トリックがあるわけではなく、読み手に真実が隠されていることはないので、彼ら四人とともにじっくりと謎に取組むという楽しみ方もできる。それだけに、最後の意外な幕切れには、なんだかしんみり…というか、悲しくさびしい気持ちになってしまった。オススメ。
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