「あれもいいけど」パパが先を続けた。「あと『燃えよ剣』なんかもいいよね」
「土方歳三!」
先輩が叫んだ。そうそう、とパパが首を振ってる。何なのこの二人。妙に気が合っちゃって。男同士って、ブキミ。
「パパとムスメの7日間」 五十嵐貴久 朝日新聞社
小さいころは、パパがいちばん大好き、といってくれていたムスメの小梅は、いまやパパの後のお風呂は全部お湯を入れかえ、洗濯物を一緒に洗うのさえ嫌がり、口も聞いてくれないイマドキの女子高生に育ってしまった。そんな小梅のことをさびしく思う、パパの「私」。
うざったい父親のことより、いまはケンタ先輩がメールをくれたのがうれしい。でも、ケンタ先輩はどんなつもりでメールくれたんだろう……ちょっとは期待していいのかな、なんて思っている、ムスメの「あたし」。
そんなふたりが、偶然に偶然が重なって、ひさしぶりにふたりで電車に乗っていたとき、思いもかけない事故が発生して……人格が入れ替わってしまった。おしっこをするところを見られるなんてヤダ、と泣きわめき、お風呂に入るときもパパ(といっても身体は自分)に目隠しをさせる小梅。とりえず、とにかく、パパの仕事にムスメがいって、ムスメの学校にパパが行くことにはしたものの、ふたりとも周囲の状況になじめずあたふたする。といっても、事故のショックでちょっと反応がおかしい……くらいに思わせておいて、いつかちゃんと元に戻れることを祈るしかないのだけれど。しかし、ムスメの小梅には土曜日にケンタ先輩との初デートが、パパには新プロジェクトの「御前会議」という重要な仕事が待ち受けているのだ。そして、パパはムスメの初デートをぶち壊す目論見をもって、デートに臨むのだが……
人格の入れかわりというのは、そんなに珍しくないネタだとは思うのだが、それを真っ向から書いている点で、なかなかに楽しい。小梅ちゃんのイマドキ女子高生ぶりと、冴えない中年サラリーマンのパパのくたびれぶりが、なんともいい感じなのである。さらっと手にとって読めるような一冊。
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