「公平ってなに? 世界は公平にできてないんだよ」
      
    「弟の戦争」 ロバート・ウェストール(原田勝訳) 徳間書店


 「ぼく」、トムは弟のアンディが大好きだった。弟が生まれる前の空想の友だち、フィギスの名でアンディを呼ぶのはふたりだけのジョーク。フットボール選手の父さんに似ているトムと違って、フィギスは人の世話を焼きたがる母さんに似ていた。しかもフィギスには、常識では割り切れないような不思議なことをいいだすくせもあった。夢見がちで、怪我や病気をした動物を助けようと必死になる弟を、トムはあるときはあたたかく、あるときにはうっとうしく思って見守っていた。どんなに変わっていたって、フィギスはたったひとりの弟だから。成長するにつれ、父と一緒にフットボールをするようになったトムと違って、フィギスの同情心、写真で見ただけの餓えた難民の子どもたちや、海のむこうの戦争で苦しむ人々にまで向けられた。そればかりではない。ある日、フィギスはこれまで聞いたこともないような言葉でしゃべりだし、自分はイラク軍の少年兵だといいだした。1990年。湾岸戦争がはじまった年だった。トムは、ラティーフと名乗るその少年兵の言葉を聞き流すが、フィギスはどんどんおかしくなってきてしまって……――
 弟の身におきた不思議な現象を、兄の視点で語った物語。
 イラクは敵だ、とテレビも父さんもいう。けれど、ラティーフは敵兵というよりも、弟と同じ少年だ。戦争に身を置いてはいるものの、楽しければ笑い、怖ければ怯え、家に帰ることを望んでいる。けれど、ラティーフのいる場所はあまりにも遠すぎて、トムにはラティーフを助けることも、そしてラティーフになってしまったフィギスを助けることもできない。
 欧米でさまざまな賞を受賞した話題作。イラク兵になってしまった弟を持ってしまったトムの変化してゆく心情を細やかに描いている。オススメ。




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