教訓 厄介者をどうにかするのは家族の責任
「虫になったザムザの話」(「大人のための残酷童話」所収)倉橋由美子 新潮社
ある日、一家の働き者の息子ザムザがゴキブリみたいな虫になってしまう。家族は大いに困って相談するが、いい案も浮かばない。しばらくは、ザムザが虫になったという噂が町中に広まり、大挙して押し寄せてくる見物人から金を取ることも出来たが、人気がなくなってしまうと、今度はゴキブリの化け物が町にいることに苦情が出てきてしまう。追い討ちをかけるように、家の中で人間より大きい動物を飼ってはならないという条例まで。ザムザは不幸な難病にかかったのだから引きとってくれといっても、誰も相手にしてくれず、家族はますます追いつめられてゆく。
もちろん、カフカ「変身」である。困り果てた家族の側から描かれているところが、なんともいえない妙なおかしみとなっている。
短編集。すべて元になった作品があり、アンデルセンやグリムといったいわゆる「童話」だけではなく、このようにカフカや中島敦、谷崎潤一郎などが材料となっている。作者が「古いお伽噺に倣つて、論理的で残酷な超現実の世界を必要にして十分な骨と筋肉だけの文章で書いてみよう」
という試みで書いたものであるので、物語の論理に従って、ときには驚くほど残酷な結末を迎えることとなる。
それにしても、「鏡をみた王女」という作品があって、元ネタは「春琴抄」。元を知っている人は、あれがこうなるのか! と唸ってしまうだろうし、これを先に読んでから「春琴抄」を読んだら……どう思うんだろうか。興味のあるところである。
なお「老人のための残酷童話」もどうぞ。
オススメ本リストへ