「不釣合いな恋は――そういうものがあるとすればだが、それは恋に似たべつのものではないのか」
「そんなのは外野席の意見だわ」
「そのとおり」私は短くなったタバコを灰皿で消した。「だが、外野席がいなくても成り立つのは、草野球だけだ」
「愚か者死すべし」原ォ 早川書房
<渡辺探偵事務所>沢崎のもとに、渡辺を頼ってひとりの女性が現れた。彼女は沢崎に、横浜で起きた銃撃事件の犯人として名乗り出た自分の父を助けてくれ、という。暴力団組長を狙撃したその事件は、父とは別の人物のやったことだが、父は誰かの代わりに自首してしまったのだ、と。その若い女性、伊吹啓子を新宿署に送って行ったとき、事件が起きる。地下駐車場に降りてきた伊吹哲也が狙撃され、護衛のためについていた若い刑事が頭に銃弾を受けたのだ。沢崎は目撃したふたつのナンバーをもとに動き始める。
帯によれば「新・沢崎シリーズ、第1弾」なんだそうだが、やはり旧シリーズ(というべきか?)を読んでいないとわからない話もあるように感じる。例えば、脇筋で神谷惣一郎とのやりとりなどがあるのだが、これは旧シリーズで解決した事件のその後にあたる。というわけで、実は何が「新シリーズ」なのか、「シリーズ」の意味がいまいちよくわからないわたしである。
が、おもしろい。
なにがいいって、ベタにハードボイルドしているところがいいのである。しかもかっこつけているだけではなく、わずかな手がかりをもとに謎を明らかにしていく「探偵」部分もしっかりある。今回は、彼の生き方というかポリシーが、犯人側の思惑を逸脱し、結果的には悪事を暴きだすことになる。絶対のオススメ、ではあるが、旧シリーズ未読の方は、まずは旧シリーズを読むことをオススメする。
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