本屋にも、学校にも、あの日の、あの河原にも。
等しく、私の記憶は息をしている。
「オーダーメイド殺人クラブ」辻村深月 集英社
『これは、悲劇の記憶である』
中学二年生の「私」、小林アンは、バスケ部員でクラスの中でも「上位」の女の子たちと仲がよく、いまはもう振ってしまったけど、いけてる彼氏がいたりする「リア充」な女の子。けれど、同じバスケ部員の芹香、倖との三人組は、ちょっとしたことですぐ誰かが仲間外れになる危険性をはらんでいる。いまもまた、ささいなひとことがきっかけで芹香から睨まれるようになったアンは、息苦しい学校生活をひたすら耐えて過ごしている。そんな彼女はある日、クラスの中でも下位層に属する昆虫植物系の徳川勝利が「なにか」を殺している姿を見かけてしまう。家にも、教室にも自分の居場所を感じることができず、球体関節人形の無機質でグロテスクな姿に美意識を感じるアンは、その日から徳川と少しずつ距離を縮め、ついに自分を殺してくれることを徳川に依頼する。
自分とは考えも感じ方も違う、と思いながらも、芹香や倖といった、いけてる女の子たちから仲間はずれにされることを恐れる気持ち。他の誰にも話せないようなことまで共有できる相手なのに、昆虫系の徳川と話していることは他の生徒たちに知られたくなくて、わざと遠くで待ち合わせ、校内では口もきかない日々。自意識過剰で自己中心的で、けれどそんなことにさえ気づいていない――それが、アンだ。
物語は、そんなアンの視点から、彼女がはなばなしく死ぬためのオーダーメイドの殺人を作り上げていく過程が描かれる。徳川を「少年A」にして死ぬことを決めたアンにとっての理想の死とは……?
読んでいてひりひりするほどの痛みがあるが、衝撃的な結末には胸を打たれること間違いなし。直木賞候補作。惜しい。
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