「『勝つか負けるか』じゃねえよ。正しくは――『勝つか、それ以外』さ。この国では勝つことだけに意味がある」
「オー・マイ・ガァッ!」 浅田次郎 毎日新聞社
ところはラスベガス、砂漠の中に聳え立つ非常識空間。そこに英語で自己紹介をするならば笑われること必至の大前剛(オーマイゴー=オー・マイ・ガァ!)が下り立った。典型的な日本人、四十七歳のバカ。長年暮らした女には逃げられ、共同出資者であった友人にも出奔され、多額の借金から逃げてこの地にたどり着いた彼は、英語が出来てもラスベガスのしきたりに関してはゼロ。そして、梶野理沙(ミス・カジノ)。会社からもらった勤続十年有休でラスベガスに来て、「切れて」しまったリサはいまや残された己の肉体のみで稼ぐ三十二歳。さらに、リトル・ジョン・キングスレイ。ベトナムの英雄で、平時にはクソの役に立たない、飲んだくれのバツいち男。この三人がD・M・B、ダイナマイト・ミリオン・バックスで隣り合わせになったことからとんでもない物語が始まる。フルベット30ドルのその台は、ジャック・ポットで賞金5400万ドル(約54億円)。勝つのはいったい誰なのか……?
ちょっとだけネタばれをしてしまうと、実はジャック・ポットは出る(まあ、出なければ話にならない)。が、三人のうち誰が手に入れるか……という部分で、行き違いが生じる。山分けはぜったい不可、という状況下で、最初こそ争っていたものの山分けでも何でも金が手に入るなら、ということで編み出した究極の手段がスゴイ。そのあたりから、物語はジェットコースター並にアップダウンしながら走り出してゆくのである。もちろん、浅田次郎、泣かせネタもしっかり仕込んであって、そこは抜かりがない。
それにしても……嗚呼、ラスベガス。気温は40度を越すのに湿度10パーセントという、勘違いな日本人があっというまに干物になる街。ルーレットもバカラもブラックジャックもいいけれど、やっぱりスロットマシーンでしょう! 胸が高鳴り、いまにもパスポートを掴んで成田に直行したくなる。誰か一緒に行きましょう(笑)。
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