「わかっただろう、失われた記憶がどこで生きつづけるか。ここ、クワシニアでさ。でも、あたしの記憶がふたたび地上にもどったりしたら、昔みたいに、また小さなただのガラスの小鳥になっちまう」
「盗まれた記憶の博物館」 ラルフ・イーザウ(酒寄進一訳) あすなろ書房
双子の姉弟、ジェシカとオリバーの家に、ある朝突然、警察が押し入ってきた。トーマス・ポロックという人物に関連した窃盗事件の捜査だというが、双子にはトーマス・ポロックが誰かさっぱりわからない。しかし、かんかんになった警察官によれば……トーマス・ポロックは双子の父親だというのだ!
父親の記憶をなくしてしまうなんてことがあるだろうか? 家のあちこちに飾られた写真は、確かに父親がいたことを示しているのだが……。自分たちの記憶喪失が、どうやら父が博物館から盗んだとされるクセハーノ像と関係しているらしいと知ったふたりは、父の残した日記を元に、自分たちの手で父を助け出そうとする。
オリバーは失われた記憶が生きるクワシニアという異世界で、そしてオリバーの記憶さえなくしてしまったジェシカは現実の世界で、それぞれクセハーノの秘密を暴こうとする。それぞれに、彼らを助けてくれる人々(オリバーの場合は記憶たち)に支えられて。だが、一方でクセハーノの力も増大しつつあり、世界がクセハーノに支配されてしまう期限も日に日に近づいていた……
物語はジェシカとオリバーのふたりの冒険を交互に描いているが、どちらが面白いかって、断然オリバーのいるクワシニアのほうが面白い。本当の自分を人間に忘れられたものだけがたどり着く世界。命ある記憶は、シェラザード姫を慰めていたガラスの小鳥だったり、ナポレオンの上着だったり、アテネの哲学者であったりする。それぞれが個性的な面々が、それぞれの本質に合った行動をするところが見どころのひとつ。
冒険と友情と家族の絆の物語。上下二巻はあっという間である。オススメ。
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