「おとなの交渉をしたんだぞ。」と教師は云い、音和もうなずいた。
              
     「野川」長野まゆみ  河出書房新社

 両親が離婚し、都心の学校から音和が転校してきたのは、近くに野川という名の川が流れる武蔵の台地に建つ中学。あたらしい生活は、学校ばかりではない。それまで疎遠だった父とのふたり暮らし。高度な技術もプライドも持った父が、伯父が経営する町の写真館で働かなければならない、その屈辱を思って音和は口を閉ざす。だが一方で、学校で音和が知り合った生徒や教員はどこか風変わりで、音和がそれまで知らなかった魅力を持つ人物たちだった。いつしかいいくるめられるようにして新聞部に入部することになった音和は、そこで伝書鳩と出会う。そして音和は、鳥の視線で世界を見ることを意識するようになる。
 自分の目で見て、体験したものではなくても、自分だけのものとして手に入れることのできる何か。音和が出会った風変わりな教師、河井は、物語ることで生徒たちの世界を広げ、深めてゆく。音和は河井のその言葉によって、伝書鳩の目で世界を見ることを意識し始めるのだ。
 長野まゆみにしては、あまりにもまっとうすぎる青春物語。途中でああなっちゃうんじゃないだろうかとか、こうなっちゃうんだろうかとか、あれこれ考えすぎてしまいました(いやいや、多くは語りませんが)。登場人物たちもふつう(異常ではない、という意味で)だし、ちゃんとふつうに女の子も登場する。
 というわけで、2011年度読書感想文コンクール課題図書。これがきっかけで、長野まゆみの他の本を読みたい子どもが増えたらどうしてくれるんだろう……



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