くそっ! これが、と考える。これが人生かよ。
       
   「ナンバー9ドリーム」 ディヴィッド・ミッチェル(高吉一郎訳) 新潮社

 「俺」、三宅詠爾は父親を捜すために屋久島から東京に上京してきた。手がかりはわずかしかない。東京の真中で高層ビル、パン・オプティコンを眺めながら、その中にいる唯一の手がかり加藤明子を待つ詠爾の頭の中には数々の妄想が超スピードで展開されるが、実際の詠爾は「え、えっと……」とどもりがちに話す田舎の青年でもある。しかし、父親探しだけだったはずの詠爾の東京生活は、思いもかけないなりゆきから知り合うことになった大門柚子のおかげで日本の暗黒面に触れることにもなってゆく。
 現実の間に挟み込まれる過去の出来事や詠爾の妄想、あるいはさまざまな人物から送られてくる手紙によって明らかになるのは、母に捨てられ、双子の姉の安寿を喪い、いまただひたすらに父親を捜しにきた詠爾の姿と、そんな彼をとりまく「東京」のめまぐるしさだ。
 外国人が描いた日本ではあるが、違和感はほとんどない(「大門柚子」という名前は特殊ケースで、他はごくまっとうな名前がついている)。それでいて、喫茶店やマクドナルド店内、電車内の様子などがどこか近未来的に描かれているところが洒落た雰囲気でもある。まるでバーチャルな世界であるかのように描かれた東京。描かれる九つの夢(というより妄想)。最後の九章めには思わずじっくり手をとめてしまった。
 イギリス若手作家ベスト20選出、ブッカー賞3連続候補の作家だとか。ナットク。これは絶対見逃せない一冊だと思う。



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