「ひょっとしてお嬢様の目は節穴でございますか?」
            
「謎解きはディナーのあとで」 東川篤哉 小学館

 国立署に所属する刑事、宝生麗子。上司は銀のジャガーに乗ってくる『風祭モータース』の御曹司で、ありきたりのことを自慢げに語るしかない能なし警部。麗子のことを「お嬢さん」といってはばからないセクハラ上司でもある。とはいっても、実は麗子は『風祭モータース』などメではない『宝生グループ』のひとり娘で、広大なお屋敷に住む本物の「お嬢様」。万事控え目な麗子だからこそ内緒にしているが、実は送り迎えは執事の運転するリムジンである。
 さて、問題なのはこの執事、影山。帰宅して「お嬢様」モードに入った麗子が愚痴るともなく語る事件をひと通り聞いただけで、いわく……――
「失礼ながらお嬢様――この程度の真相がお判りにならないとは、お嬢様はアホでいらっしゃいますか」
 連作短編集。というわけで、毎回、麗子は影山に馬鹿にされて激怒しつつも、影山の推理に頼って犯人を見つけ出すことになる。
 いやあ、影山の毒舌執事っぷりがよい。麗子の話を聞いただけでの謎解き、ということで、アームチェアディテクティブ(安楽椅子探偵。自分では動かず、他人の話を聞いただけで推理して謎を解いてしまう)の変形なのだと思うのだが、御曹司警部と令嬢刑事の迷走を、冷静にこき下ろす執事のなんと冴えわたって見事なこと。
 執事とお嬢様で物語ができるとは思ったが、まさかこういうのが出てくるとは……。麗子と影山の掛け合いは今後も続きそうである。続きも期待。




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