「お前のは全然普通の生活じゃないって……」
「関心のないことに関心を払わないのが? 大事じゃないことを大事にしないことが? 程度の低い人たちに合わせないことが?」
                
 「夏の滴」 桐生祐狩 角川書店

 僕、藤山真介は小学校六年生。国語の成績だけが良くて、同じように本を読むことが好きな徳山芳照、河合みゆらとで、授業中に京極夏彦の本を回し読みしたりしている。自分たちがちょっと不気味なガキ共であることは自覚しているけれど、両足の腿から下がなくて車椅子に乗っている徳山と一緒にいれば、傷つけられることも特別扱いされることもない。地元のローカルテレビ局が毎年取材しているとおり、僕らのクラスでは、「とっきー」の障害を障害と考えることなく生活しているからだ。クラスには他にお調子者の松島や、存在自体が気持悪くて邪魔な八重垣潤という少女がいて、僕らは八重垣を踊り場サッカーのボールにして遊んだり、気持悪いからひっぱたいたりして、毎日楽しく暮らしている。
 けれど、そんなある日、八重垣がクラスに持ち込んだ「植物占い」によって、周囲に不気味なことが起こり始めた。占いどおりにお腹を壊したり、怪我をしたりする子どもたち。第一、植物占いとはいったい何だ? しかも、その占いには真介の誕生日のページだけがない……――不景気で苦しんでいたはずの大人たちが急に大盤振る舞いを始めた理由。転校していったっきり連絡のとれなくなったクラスメイト。夏休みを控えたこの楽しい日々の裏に、どんなことが隠されているのだろうか……――
 植物占いの背後に隠された古代からの言い伝え、といった部分が恐怖のメインであるとは思うのだが、物語の前面にあるのは、八重垣をいじめ、さんざん傷つけておきながら、自分たちの行動に無自覚な小学生の残酷さだ。
 表面からは見えない部分で、徐々に蝕まれていく日常。真実が明らかになったとき、いったい誰が生き残れるのか。
 第8回日本ホラー小説大賞長編賞受賞作。肝心の「恐怖」部分は、冷静に考えるとあり得ない話過ぎて笑っちゃうほどお粗末なのだが、ほのぼのした文体を装いながら、子どもの持つ根源的な残酷さを書いた点で評価。



オススメ本リストへ