たいしたもんだって思ったね。
 かまわないぜ、好きにして。そうまでして笑われたいんなら。
          
  「笑われたい」(「夏のこどもたち」所収) 川島誠 角川文庫

 中学のころ、ケンジっていうやつがいた。ひとを笑わせるのが好きで、笑われるためなら身体を張ったギャグもいとわない。受けても受けなくてもギャグを続けるケンジは、同級生ばかりか下級生にもなめられっぱなしで、見ていられないほどだった……
 主人公の「俺」が振り返る、中学時代の思い出「笑われたい」。
 サッカーに自信のある主人公「ぼく」が、転校先のサッカーチームでは実力を発揮できずに空回りしてしまう「インステップ」。
 リレーの選手に選ばれた「ぼく」の、ちょっぴり苦い初恋を描いた「バトン・パス」。
 ちょっとした優等生でありながら、世の中を冷めた目で眺めている主人公が、ふとしたことから、校内1の問題児と一緒に校則特別委員会に選ばれてしまう「夏のこどもたち」。
 小学校高学年から中学3年生までの少年たちを主人公にした短編集。斜に構えてクールぶっている彼らの内面を鮮やかに描いた作品。
 さて、「笑われたい」では、主人公「俺」とおなじバスケ部2年の池上の存在が、やはり欠かせないのだろうなあ……と思う。登場シーンも少なく、口数も少ないが、池上が登場することで、この小説が出来上がっているのだと思うから。そういう意味では、もしかするとケンジの話を書いているようでいて、実は池上の話を書いているのかも。
 表題作は、発表当時、あまりの過激さと尖鋭さに、批評家たちに衝撃を与えたという。児童文学の枠を超えた児童文学。




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