「あのな、子どもの頃の友達っていうのは、いいもんなんだぞ。雄ちゃんとお父さんのように、ケンカもするけど、一生もんだからな。そりゃあ、大人になっても親しい友人はできるさ。でも、やっぱり違うんだな……」
「夏を拾いに」 森浩美 双葉社
広告代理店で働く「私」は、会社から急な大阪転勤を命じられ、そのことを家族に告げられないまま、小学校五年生になる息子が受験勉強とゲームばかりしていることが気にかかっていた。もっと他に、することがあるんじゃないか……。妻には一蹴されたが、珍しく興味をもったらしい息子に語る、遠い夏の不発弾探し。
昭和46年。幼稚園のときからの幼なじみ、おっとりと優しいつーやん、成績が悪く悪戯っ子の雄ちゃん、ブンちゃんと呼ばれている「僕」。バカなことをしては先生に叱られ、同級生の女子たちにもバカにされ、それでも毎日が楽しくて仕方ない。とはいえ、いつまでもバカにされているばかりでは面白くない。三人は大逆転を図るため、かつてこの町にあった零戦工場をめがけて落とされたという爆弾、いまも畑のどこかにあるかもしれないという不発弾を探すことを決意する。さて、不発弾を探すために必要なものは何だろう……――
昭和46年当時にも、受験生がいなかったわけではない。東京からの転校生、高井は、成績が抜群で、ちょっと長めの髪をしたすかしたやつで、三人にとってはまるで別世界の人間だったが、ふとしたことから高井も不発弾探しに加わり、三人は不発弾探しのあいまに、それまで高井が知らなかった、いろんな野山の遊びを教えてやることになる。というわけで、不発弾を探す話ではあるが、小学生らしく、彼らの興味はあっちにいったりこっちにいったり。これで本当に見つかるのか不安になってしまうほどである。
はじけるような夏の思い出、その中にひそむ家族との絆や友情。ノスタルジックに語られる物語はどこか切ない。最後まで読むと、「夏を拾いに」というタイトルの意味が胸に落ちる。
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