おれたちの新しい時代、新しい歴史は始まるんだろうか。
 それはほんとうに、"輝かしい"んだろうか。

                     「なぎさボーイ」 氷室冴子 コバルト文庫

 のっけから脱線してしまうが、わたしとほぼ同年代で「なぎさボーイ」を知らない女性はほとんどいない。と、断言してしまうほどに……氷室冴子作品、特にこの作品はある意味で青春時代のバイブルだった(笑)。この文章を書くために読み返し、「いま、なぎさボーイ読んでるんだ」というと「ああ、なつかしい! 北里くんね」とか、「ああ、多恵子ちゃんだっけ…」と遠い目をする人が何人もいたのだ。
 さて。雨城なぎさ、男はすべからく枝葉末節にこだわることなく泰然と構え、天下国家を論ずるべきだ……なんぞと思っている彼は小づくりで女顔、しかもとどめはやはりその名前。全校生徒から「なぎさちゃん」呼ばわりされ、「かわいい」と連呼されてしまう。そんな、かわいいくせに男はこうあるべきだ! と肩肘つっぱった彼の周囲にいるのがまた個性あふれる面々だ。なぎさに「ちゃん」付けをした元凶の女、おしゃべりでおせっかいなターコこと原田多恵子。踊りの家元の息子で、なぎさにプロポーズした過去を持つ幼稚園からの幼なじみ九條紫川こと森北里。それに北里のいとこで多恵子の親友である、外見は日本人形、中身はアメリカ女の麻生野枝。多恵子に惚れているといいながらなぎさにまとわりつく松宮、なぎさと因縁の過去を持つ槙修子……恋に部活に受験にと、揺れに揺れまくるなぎさくんの話は……もうとにかく読んで、としかいいようがない。
 できれば「多恵子ガール」「北里マドンナ」と続けて読んでもらいたいものだ。渡辺多恵子のイラストも、いかにも! という感じでいい。



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