「困るのは、どこからはじまったのか私にもわからない点なのだ」
「ミューテイション―突然変異」ロビン・クック(林克己訳) ハヤカワ文庫
物語は、ヴィクター・フランク・ジュニアの誕生から始まる。代理母を頼んでの出産だが、父親であるヴィクターにはその誕生を恐れる十分な理由があった。生まれたときから産声をあげず、宝石のように冷たく青い目で父親を見返してくる赤ん坊。生後数ヶ月で離し始め、本を読み、複数の言語を操るようになるヴィクター・ジュニア(VJ)。だが、長男と乳母は奇妙な肝臓癌で死亡し、VJに続いて生まれた天才児ふたりもありえない死を遂げる。ヴィクターはVJの身を案じ、保安員をつけるが、一方で妻のマーシャは母親として、そして児童精神科医として、息子に異常なものを感じ始めていた。そして一家の周囲で次々に起こる不気味な事件。
精神的な成熟度と知能の発達度が比例しないVJの姿は、父親ヴィクターから見れば誇らしいほどに素晴らしく、母親のマーシャからみれば精神異常者的な不気味さがある。これは女性と男性の感じ方の差なのだろうか。ヴィクターの反応の鈍さというか理解度の遅さには、読んでいてじれったくなるほどである。
幼い天才児といえば、カードが好んで題材にするものだが(エンダーシリーズ等)、実際にはどうなのだろう。頭がよすぎて悪の道にはしるほうが多いのか、頭がよいからこそ倫理的な規範がしっかりしているものなのか。エンダーの中には両方のタイプが出てきたものだが、こういう本を読むと改めて思ってしまったりもするのである。頭がよいのも考えものだなあ……とか。ラストがまた衝撃的である。暇なときにでも、ぜひ。
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