這い上がれねえよな――。心の中でつぶやいた。
「無理」奥田英朗 文藝春秋社
県庁から出向し、ゆめの市役所の社会福祉事務所でケースワーカをしている相原友則。無理なことをいって生活保護費をむしりとろうとする身勝手な市民に腹を立てつつ働いている。
高校二年生の久保史恵。学校では進学組に属し、東京の大学にいっておしゃれな生活をすることを夢見て、受験勉強に励んでいる。
暴走族あがりの加藤裕也。老人相手に配電盤の保守点検と偽り金を巻き上げる会社ではあるが、少しずつ出世し、社長に認められることを誇りに思いつつ営業に励んでいる。
複合商業施設ドリームタウン内にあるスーパーで保安員として働く堀部妙子。勝手な言い分を口にする万引き犯を叱りつけることが楽しみだが、私生活は孤独で、新興宗教「沙修会」にはまっている。
市議会議員、山本順一。父親の地盤を継ぎ、春には三期目の選挙を控えているが、そののちは県議会に出馬予定。愛嬌のある秘書を愛人とし、地元の意見をまとめつつ、地盤固めに余念がない。
物語は、この五人の生活を交互に描くことで進んでいく。
彼らは当初、ささやかながらも、それなりに自分に満足のいく生活を送っているし、下を見れば自分よりも情けない連中がたくさんいるこのゆめの市にはなんの期待も持たず、自分以外の連中は馬鹿だと思って暮らしている。
ところが、少しずつ歯車が狂い始め、馬鹿だと思っていた連中によってとんでもない運命に巻き込まれていく。まさに、最悪の事態。
けっこう分厚い本だが、あっという間に読めた。お先真っ暗、最低最悪な現在を、彼らはどう生き延びるのか。それとも生き延びられないのか? オススメ。
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