握りつぶしつつ、彼も苦痛を感じているのだ。悲痛に歪んだ彼の顔を、おののきながら凝視していると、はっきりそのことが理解できた。こうしなければならないから、こうしているんだ、という非合理的な、しかしひどく強力な論理が彼の全身をおおっているのだった。
         
  「森の人」 大岡玲 講談社

 十六年前の五月、「ぼく」は転校先の小学校で、守山光浩と出会った。大柄な割にひ弱な印象を持つその少年は、人間というよりもどこか人間以外の動物めいた雰囲気も漂わせ、学校では孤立した存在だった。しかし、自分の中にどこか「はみ出した」部分を抱えていると感じていた「ぼく」は、少しずつ守山に近づいていく。その一風変わった奇妙な友情は、「ぼく」の再度の転校まで続いたが、その後、ふたたび守山に出会うことはなかった。守山が何人もの若い女性をこん棒で殴り気絶させた上で強姦し、最後は鋭い木の杭で胸を突き刺して殺す凶悪な連続殺人鬼として世間をにぎわせるまでは。「ぼく」は、守山の精神鑑定を行うことになった大学の指導教官に頼み込み、助手として守山の鑑定に付き添って行く。
 樹木をめぐる連作短篇――だが、あとがきで作者本人が書いているように、どのあたりが「連作」かは、やや不明瞭である。相互の関連性もそう感じられないし、樹木……まあ、この話も一応は樹木かあ……といった程度の扱いがされている話もある。しかし、それゆえにこそ、恋愛小説あり、SFあり、ミステリっぽい話あり……で、かなり内容はバラエティに富んでいる。
 個人的には「植樹祭」の、最後の主人公の台詞を冒頭に掲げたかったのだが、あまりにもネタばれになりすぎると判断して控えることにした。気持ち悪いけど、ありそうな話……である。



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