いま話していることは、ぜんぶモミの木につたわっていることが、クロケットさんにはわかっていました。このモミの木にかぎらず、生きているものたちは、みんなおたがいに気持ちがつたわることを、クロケットさんは知っていたのです。
「しあわせなモミの木」 シャーロット・ゾロトウ文・ルース・ロビンス絵(みらい なな訳) 童話屋
絵本にしては字が多いかもしれない。けれど、こころあたたまる素敵な話だ。
ある町に、おちついた建物のならぶ美しい通りがあった。どの家の前にも木が植えられ、小鳥がさえずり、人々は星をながめ、笑いあい、なかよく暮らしていた……けれど、その通りも時代の流れで、お金持ちの人だけが住む通りへと変わってしまい、小鳥も来なくなり、人々が星を眺めるようなこともなくなってしまう。
そんな通りの、一軒だけあった空き家に越してきたのがクロケットさんだ。森の妖精のおじいさんのような格好をし、自分で窓をみがき、階段そうじをするクロケットさんに対して、通りの人たちの反応は冷たい。だから、ましてやクロケットさんが枯れかけたモミの木を買ってきて、それを自宅の前に植えたときにはびっくりするし、小鳥たちのためにパンくずをまいたときにも、目ざわりだわ、といやな顔。けれど、夏がきて、秋がきて、冬がきて……しずかに月日が流れるうちに少しずつ、なにかが変わってくる。
大きな変化はない。けれど、モミの木と語り、子どもたちの遊ぶ姿を眺めているクロケットさんの生活は静かなだけではなくゆたかでもある。クリスマスに読みたい一冊。
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