「ただしハリエットの場合、彼女がどのように死んだのかもわかっていない。厳密に言えば、殺人があったことすら証明できないのだからね」
             
  「ミレニアム:ドラゴン・タトゥーの女」スティーグ・ラーソン(ヘレンハルメ美穂、岩澤雅利訳) 早川書房

 物語は、月刊誌『ミレニアム』の発行責任者ミカエルが有罪を宣告される場面から始まる。大物政治家に対する中傷記事を書いたことで訴えられ、でっちあげの記事を書く記者という汚名まで背負ってしまったミカエル。数ヵ月後には刑務所入りが決定している彼に声をかけてきたのは、大企業ヴァンゲル・グループの前会長ヘンリックだった。ヘンリックはジャーナリストとしてのミカエルに、ヴァンゲル一族の歴史を書くという表向きの仕事を与える一方で、約40年前、島全体が密室状態にあった中から忽然と姿を消した孫娘ハリエットの失踪事件(ヘンリックは殺人事件であると確信している)を調査してほしいと依頼する。しかもヘンリックは莫大な報奨金とは別に、この調査を成し遂げれば、ミカエルの的である大物政治家を破滅させるだけの証拠を渡すという。40年間にわたってヘンリックが集めていた新聞記事や当時の写真、人々へのインタビュー。覚え書。あますところなく調査されきっているように見える膨大な資料を丹念に読みとき、ハリエット失踪の謎を解くための手掛かりを得ようとするミカエル。そんな彼が資料調査のアシスタントを求めたときに紹介されたのは、拒食症のように痩せ、身体のあちこちにタトゥーを入れた女性調査員、リスベットだった。他人とのコミュニケーションがうまくとれず、犯罪すれすれ(というか犯罪そのもの)の調査方法も用いるリスベットだが、彼女のおかげで、ミカエルはハリエット失踪の謎に一歩ずつ近づいてゆく。
 頭は弱いが性格と外見のよい金髪美人と、無口でぶっきらぼうだが頭がよく腕の立つ男――という類型的な男女の役割をまったく逆にしたのが、ミカエルとリスベットである。というわけで、リスベットの男らしくかっこいいことったらない(笑)。非常に捻くれた、複雑な人物であるリスベットが物語の中でも異彩を放ち、強烈な印象を残す。
 40年も昔の謎を解くことができるのか。ミカエルと同じように、いつしか引き込まれていることと思う。オススメ。





オススメ本リストへ