「知っててこのままにしたら、ぼくらも共犯になる」
          
  「緑ヶ丘小学校大運動会」森谷明子  双葉社

 
 今日は小学校六年生のマサルにとって、最後の運動会。周囲のみんなは塾に通わされて 、ママにせかされて大変そうだけど、マサルのママは四年生のときに死んでしまったから、母親にせっつかれて塾に通って必死に勉強するってことはよくわからない。わからなくてさびしいこともあるけれど、親友のイッキのおかげで、たいていは楽しく毎日を過ごしている。ところが、運動会当日、ひょんなことから手に入れたのは、見たことのない薬のシートと、きれいなビーズのついた箱。この薬はいったいだれのものだ? もしやこれは殺人の証拠なのか……? 仲間たちとの推理の結果に、マサルは心を揺らす。
 一方、マサルの父親、真樹夫は遅れていった運動会で、子どもたちのあいだにドラッグが出まわっているという噂を耳にした。県庁の薬剤課研究室から児童相談所に出向して一年。子どもたちを守らねばと意を強くした真樹夫に、さらに母親のひとりが薬物中毒死したという情報が入ってくる。どうやら、違法ドラッグは保護者、子ども問わず多くの人々のあいだに出まわっているらしい。いったい、どんなグループがどうやって? そんな真樹夫が気になったのは、やけにきらきらしたビーズ付きの箱と、がりがりに痩せた女の子……――
 運動会の進行に合わせて、息子と父親が互いに知らぬまま、それぞれ事件の真相に近づいていく。といっても、マサルは競技に参加したり運営委員として活動したりとやらねばならないことがあって、友だちともずっと継続して推理を続けるわけにはいかない。一方の真樹夫も、母親たちの集団にはどうも溶け込みづらく、ふだん学校にかかわっていないだけに、子どもも親も誰が誰だかわからないという弱点がある。ふたりは事件を解決できるのか? そして、真の犯人とは……?
 運動会のあわただしい雰囲気の中での推理劇という状況設定が効いている。森谷明子といえば、以前は「れんげ野原のまんなかで」で図書館とミステリーを融合させ、こんどは運動会とミステリー。いろいろ工夫しているんだと思う。オススメ。




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