神に感謝。アーメン、アーメン。
「百万のマルコ」柳広司 創元推理文庫
戦争捕虜となり、ジェノヴァの牢中でむなしく時を過ごす物語作者の「わたし」、ルスティケロとともに牢で暮らすのは、<船乗り>レオナルド、<仕立て屋>ジーノ、<僧侶ヴォロッキオ>、<貴族>コジモの四人の若者。いずれも見習いであったり次男、三男坊であったりして、身代金を払って牢から出られる見込みなどまったくない連中。そんな彼らを苦しめるのは、なんといっても「退屈」であるということ。しかし、ある日、彼らの牢に加わったマルコ・ポーロ、「百万(ほらふき)のマルコ」が語る話は、彼らを退屈から救い出し、これまでまるで知らなかった世界へと誘うのであった……
黄金が道端にごろごろ転がっているという黄金の国ジパング、駿馬を抱える大ハーンとの賭け、世界一の画家との腕比べ……などなど、大ハーンの使者として世界のあちこちを旅したマルコの話は興味が尽きない。しかし、なんといっても牢内のみなを悩ませたのは、マルコが肝心の出来事を伝えないまま、なにもかもを「神に感謝、アーメン、アーメン」と、めでたし、めでたしにしてしまうこと。実のところはいったい何が起きたのか? 不可解な謎を解くため、若者たちは知恵を絞って真相を推理する。
連作短編集。
「百万のマルコ」の名が示すとおり、マルコの話はホラであろう……と思われる。が、それでもそれぞれに風変りな国で起きた絶体絶命の危機を、知恵ひとつで乗り切るにはどうしたらいいのか、ということを、若者がさんざん悩み、マルコが答える、という形式はそれだけでも興味深い。
「ジョーカー・ゲーム」の柳広司というよりは、「虎と月」の柳広司と思ったほうがいいだろう。気軽に楽しく読める作品。
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