「俺は、良い相棒に巡り会えた……」
「マルドゥック・スクランブル」 冲方丁 ハヤカワ文庫
未成年娼婦のバロットは、家を捨てた自分に新しい身分を与えてくれ、大切にしてくれていたはずの男、賭博師のシェルによって爆死させられそうになった。炎上した車から瀕死の彼女を救い出したのは、事件屋のドクターとウフコック。そしてバロットは代謝性の金属繊維を全身にまとい、皮膚感覚の加速装置と電子的探知能力、電子操作能力を身につけた。驚異的な空間把握能力と自由自在なハッキングを可能にしたその力で、バロットは自分を守るだけではなく、自分の事件そのものを追うことになる。ネズミ型万能兵器のウフコックを相棒として。しかし自在に操れる力を得たいま、「道具」存在であるウフコックを濫用せずに使うことができるのか。よみがえったバロットを標的に、シェルが送り込んだのは、かつてウフコックを濫用し、殺戮の限りをつくした男ボイルド。半ば狂った頭の中で、ボイルドはウフコックをふたたび手に入れようという決意を秘めてバロットたちに襲い掛かる。
……と書いてくると、いかにもアクションSFという感じなのだが(いや、実際にそれはそうなんだが)、実はこの小説の一番の読みどころはカジノシーンではないかと思う。
シェルの犯罪を裏付ける証拠探しをしていたバロットたちは、シェルの記憶データがカジノに保管された4つの100万ドルチップに隠されていることを探りあて、カジノにむかうのだが、あくまでも「合法的」に400万ドルを稼ぎ出す、というところがミソ。スロットマシーン、ポーカー、ルーレット、ブラックジャック。テーブルについた他の客たちやディーラーとの勝負を通じたやりとりが生き生きと描かれている。
……っていうか、全3巻のうち、ほぼまるまる1巻分がカジノシーンってのはどうよ?(笑)。ネズミと少女の恋愛小説としてもおもしろいし、ボイルドがウフコックに執着する点から考えても三角関係のようだし(?)、とにかく楽しんで読めることは間違いない。しかも作者、おそらく海外SFにかなり詳しいはず。お、これは……と、にんまりするようなネタが散りばめられているのもうれしい。オススメ。
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