ぼくのこの書きつけ、どうも誰かに読まれているようだ。今ちょうど、おまえが読んでいる最中なら、警告しておこう。おまえが誰であるにせよ、いい気になるな。そうだ、せいぜい気をつけるがいい。ぼくが必ずおまえの首根っこをつかまえてやる。
「マーチ博士の四人の息子」ブリジット・オベール(堀茂樹・藤本優子訳) ハヤカワ文庫
医師のマーチ博士の家にメイドとして入ったジニーは、ある日、とんでもない書きつけを発見する。それは、博士の四人の息子のうちのひとりが書いた日記のようなもの。彼は生まれついての殺人狂で、幼いときから殺人を繰り返していた。これは事実なのか、それともただの妄想か? 迷うジニーが恐れていたとおりに、彼らが出かけた先で殺人事件が発生。だが、刑務所入りの経験があり、いまも名前を変えて警察から逃げているジニーには、彼を警察に告発するだけの勇気がない。彼女ができるのは、ただただ日記を読み、それが息子たちの誰なのかを探りあてようとすることだけ。クラーク、ジャック、マーク、スターク。よく似た四つ子の青年たち。いったい殺人者は彼らのうち誰なのか? しかもそのうち、ジニーが日記を読んでいることを、相手に気づかれてしまった……! そしてジニーと殺人者との、息詰まるやりとりが始まった。果たしてジニーは彼を出し抜くことができるのか。
殺人者の日記とジニーの日記が交互に現れる形の小説。訳者ふたりがそれぞれ違う部分を担当しているということもあり、メリハリがきいていてとてもよい。殺人者は4人の青年のうちの誰かであるはずなのに、まるで子どものように我儘で幼い口調。ジニーは教育こそないが、勝気でちゃきちゃきした口調。このジニー、なんとかして殺人をとめなきゃ、と思っているし、自分なりにサイコパスの本を買ってきて研究したりもするのだが、いかんせん半分アル中気味で、ときどき酒のせいで朦朧としてしまう弱さも抱えている。ああもう、じれったい! と思いつつ……引きずられてしまう。
「悪童日記」アゴタ・クリストフ絶賛、の帯につられて読んだ人も多いと思うのだが、実際のコメントは「なかなかよく出来ていて面白かった」みたいなんですけどね……これって、「絶賛」?
とはいえ、間違いなくオススメではあります。
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