「お前さん、なんでまたあのスカンクがほしいのかね? たかがごろごろ鳴くスカンクだに」
 大佐は頭を両手でかかえこんで机を見つめた。
「やれやれ」と大佐はうめいた。「人間、どこまで阿呆になれるもんかね?」
          「へっぴり作戦」(「大きな前庭」所収) クリフォード・D・シマック(小尾芙佐・峯岸久志訳) ハヤカワ文庫

 疲れが溜まったときに読みたくなるシマック(笑)。実はとても好きなのだ。癒し系でユーモアたっぷりの作品ばかりの短編集なので、「都市」や「中継ステーション」といった長めの作品の前にこちらから読んでみるのもいいかもしれない(「都市」を連作短編集と見る見方もあるが)。
 この作品集に出てくる登場人物たちは、いわゆる純朴な農夫タイプが多く、とんでもないことを仕出かす宇宙人と出会ったところでまるで動じない。周囲の切れ者連中がおたおたするのを、なんでこいつらは騒いでるんだろう……くらいにしか思っていないのだ。そしてまた、彼らはしたたかでもある。自分の役に立つことはしっかりと手に入れる。宙を浮く自動車や、病気も災害もない村。よそ者だろうが宇宙人だろうが、自分たちのためになることをしてくれて、害をなさなければ――それは仲間だ。村の外にいる「よそ者」たちにはしっかりと口をつぐみ、じっと様子をうかがっている、その頑固さ。
 「ジャック・ポット」は農民の話ではなく宇宙船で旅をする男たちの話だが、それでも登場人物たちの小狡さが良く出ていておもしろい。お上品で高潔な人間なんて退屈なだけだ、といってしまういさぎのよさ。
 見たことも会ったこともないが、昔のアメリカ人の農夫ってこういう感じだったのかな、昔のアメリカの農村ってこんな感じだったんだろうな、と思わせる現実味が物語のそこここにある。そしてそれが、コンクリートに囲まれてせかせかと暮らしていることに疲れたとき、心を慰めてくれる。



オススメ本リストへ