「君たちの言葉にはないだろう。私たちの言葉にはある。言語兵器とでも呼ぶがいい。君たちが一度も遭遇したことがなく、想像もできないような危険な言葉が存在するのだ」
             
 「メデューサの呪文」(「まだ見ぬ冬の悲しみも」所収) 山本弘 早川書房

 これは、ある詩人の手記である。「僕」は語る。これを読むであろう「あなた」へ。僕が語るのは、あなたたちが知りたがっている26トンの宇宙戦艦と486名の人名が失われた事件の真相だ。3年半前、巨大な戦艦<バシリッサ>の唯一の詩人として、言語学者や人類学者では成し遂げることのできなかった異星人インチワームとのコンタクトを託された「僕」。部族のタブーに触れるとのことで、言語学者にも人類学者にも話せないことを、詩人にならば話すという。そして僕は、崩壊した文明になす術もなく原始的生活に退行したと思われていたインチワームたちが、物質文明から言語文明へと進化したということを知る。だがそれは、人類には決して耐えることの出来ない言葉の力との出会いでもあった。
 短編集。
 ニーブンを思わせるような異星人の船に乗って宇宙の真理を知る話あり、梶尾真治を思わせるような男女の恋を軸に時間やタイムマシンを語る話あり、神林長平を思わせる言葉の話あり……と、なんとも多方面にわたって贅沢な思いをさせてくれる作品集。ユーモアSF(というより、称賛をこめて「バカSF」と呼ばせていただきたい。かねがね述べているように、わたしとしては最大級の賛辞である)まで収められている。作者のアイデアの豊富さがわかるというものである。
 それにしても、わたしが「バカSF」と誉めた「スレディンガーのチョコパフェ」は裏表紙で"アキバ系科学幻想譚"とされている。……それまたすごい冠のような(笑)。



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