あたしが必死に話すと、みんなが泣いているような気がしてくる。それで、あたしはどうしたらいいのかわからなくなって、最後はごめんなさいって呟く。甘やかされていても不幸なことだってきっとある。
           
「木になる花」(「あたしのマブイ見ませんでしたか」所収) 池上永一  角川文庫

 八つの物語が収められているのだが、どれもどこか不思議で、シュールといってもいいよううな感覚のものばかりである。表題作「あたしのマブイ見ませんでしたか」は、島のユタから「マブイ(魂)」が落ちていると言われた優子が、島中を歩き回ってマブイを取り戻す話。なにせ七つのマブイをいっぺんに落としてしまったのだから、探すのも大変だ。てくてく歩いていっては、そのあたりにいるオバァにあたしのマブイみなかった? と訊ねると、帰ってくる答えは……。なんなんだ、この物語は。
 「復活! へび女」はせつない系といっていいかもしれない。夜な夜な訪れては添い寝していく謎の女。ハムスターに与えるかのように隣の老婆の部屋の外にあられを置いておく青年。それだけ書くとなんじゃそりゃ? と思うかもしれないが、これがもう月の夜の美しさと現実の不気味さがあいまって、いい話なのである。「宗教新聞」はシュールさでいえば突出。宗教新聞の勧誘に来る女性と、新聞を破り捨てることだけが生きがいみたいな男。しかし、いつしか宗教新聞にはまりはじめる男が目にしたものは、新聞というにはあまりにも卑近で、かつこんなことどうして? と思えるほどに自分にだけ関係する投書。男と勧誘女が互いにフルネームで呼び合うシーンなどは、気味の悪い笑いに襲われるほどだ。
 不思議だ。本の裏表紙には「みずみずしい感性が紡ぐ、切ない八つの物語」と書いてある。……うん、そうともいう。と頷きつつ、沖縄ってなんか違う世界なんだなあ、と思ってみたり。
 四月から沖縄の大学で先生になる我が友、水城嬢。どうか、マブイを落とさないようにね(沖縄に生まれない人間にもマブイは七つもあるのかな?)。



オススメ本リストへ