「樫の木は、『誠実であれ、清らかに生きよ、魂をここまで高くあがらせて名誉を貴ぶ心がどんなことをなしとげるか、世界の風に教えてもらいなさい』と語ります」
         
「リンバロストの乙女」下巻 ジーン・ポーター(村岡花子訳) 角川文庫

 上巻では母親との確執に苦しんでいたエルノラだが、思いもかけない出来事をきっかけに和解。しかし、母親の愛情が逆にエルノラの大学進学を妨げることとなってしまい、エルノラは博物学の教師として教壇に立つ九月を前に、美しいリンバロストの森の夏を過ごす。そして、幸福に暮らす母娘の前に現れたフィリップ・アモン。病後の療養に夏を過ごしに来た彼は、博物学への関心も深く、エルノラの標本集めの助手を申し出て、ふたりはすぐに心を打ち解けるようになる。しかし、彼には幼いころから約束した美しい婚約者がいた。彼女のためにも、フィリップへの愛情は微塵も表に見せず、友情に徹するエルノラ。だが、運命の糸は思いもかけない方向へとすすんでゆく……
 今回は、森の乙女と都会の乙女の対決(というほどでもない)。このあたり、アンがギルバートの愛情に気づかず、理想の男性像を夢みているのとはやや違っているのだが、フィリップが幼いころからのこととはいえ、どうしてこんな女の子に、という相手を愛しているのがいまいち納得のいかないところ。それでも、婚約者エディスの最後の行いはあまりにも素晴らしく、心洗われるものであることも事実なのだけれど。
 とにかくこの巻のすばらしさはリンバロストの夏。美しい森の見せるさまざまな姿に、エルノラたちではなくとも神の愛、神の御業のすばらしさを感じずにはいられないだろう。さらに上巻では名前だけ出てきたそばかすとエンゼルが、四人もの子どもの両親として登場。その点でも楽しめることうけあい。母親と和解したエルノラの幸福な姿も必見である。
 個人的には、高慢でわがままなお嬢さま、しかも他の男の婚約者であるエディスに変わらぬ愛情と庇護を与えつづけるハート・ヘンダソンが最高。フィリップとの友情も篤く、登場人物の中ではとんでもないく「いい男」である。

 実はこの本、おそらくは品切れ絶版。手に入らずに読みたいよみたいと思っていた願いをかなえてくださったみちるさまには、いくら感謝してもしきれない思いです。わたしにとって今年の夏は、素敵な本と、素敵な人に出会えた幸福に感謝する日々となりました。ありがとうございました。
(それにしてもこんな本を絶版にする角川、許せん! 笑)


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