彼はマスコットだったのか? いいえ。町の考え方を変えたのか? もちろん。もちろん全員ではないが、かなりの人々を。デューイは改めて、スペンサーが他と違う町だと思いださせてくれた。
「図書館ねこデューイ」 ヴィッキー・マイロン(羽田詩津子訳) 早川書房
凍えるような冬の朝、スペンサーの図書館長ヴィッキーは、返却ボックスに入れられていた赤茶色の子ねこを見つけた。汚れ、ふるえ、しかし信頼し切った目をした人なつこい表情の子ねこに、ヴィッキーはこのねここそ図書館に必要なものだ、と直感する。当時、スペンサーの町は大規模な農業危機に襲われ、仕事を失った人々が暗い顔をして歩いていた。そんなところだったからこそ、捨てられていたねこの物語は人々の心をゆさぶった。デューイは図書館内を自由に歩きまわり、人々のひざにのり、カードケースで居眠りをした。デューイの存在が人々をあたたかくし、ついには遠い地から、デューイに会うためにスペンサーの町にやってくる人たちまで現れた。スペンサーの人々がデューイを誇りにしないわけがあろうか。
一匹のねこが図書館にもたらしたあたたかさ。
館長であるヴィッキーもまた、健康に問題を抱えたシングルマザーで、ティーンエイジャーの娘との関係に悩むこともある。けれど、そのすべてにデューイが支えとなり、励ましともなるのだ。
もちろん、中にはねこアレルギーの人がいたり、ねこ嫌いの人がいたりもするので、すべてがすべていいことばかりだったとは思えないが、愛情込めて書きつづられるデューイの姿は、ねこ好きの人にはたまらないものだと思う。輪ゴムが好きで、どんなに隠しても隠しても見つけ出しては食べてしまう姿など、いろんな点で愛らしく、デューイの行動から目が離せない。
……さて、デューイの名前のもととなったのは、DDC(デューイ図書十進分類法)にちなんでのこと。ちなみにこれ、日本だとNDC……ま、アメリカでよかったよね(笑)。
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