ぼくはこんなしけた惑星にこれ以上ぐずぐずしていたってしょうがない。すべてがもっとしけたものになって、もっといやらしくなるだけなんだから。
「ラスト・ドッグ」ダニエル・アーランハフト 金原瑞人・秋川久美子訳) ほるぷ出版
ローガン・ムーアには大嫌いなものが山ほどあった。内容が変わることがあっても、最後のひとつだけは決して変わることのないリスト。いつも腹を立てていること。それが、決して変わることのないローガンの大嫌いなもの。母さんの再婚相手のロバートに腹を立て、いい子ぶってるデヴォン・ウォレスに腹を立て、デヴォンの飼い犬のオーティスのことも、ロバートがうらやましがっているお上品ぶったウォレス一家のことも嫌い。だけどなにより、それらすべてにいつも腹を立てている自分が嫌い。ロバートがローガンのことを理解してくれることなんて決してない。だから今度も、ロバートはローガンに「規律と責任」を学ばせるために、犬を飼えといい出した。しかも600ドルも出して血統書つきの子犬を買ってこいなどと。だけどローガンはそんなのくだらないと思っていたから、母さんをいいくるめて、保護施設に行ってロバートが絶対気に入らないような、気性の激しい汚い野犬を引き取ってきた。雌犬だったけれど、ロバートが血統書つきの子犬につけたがっていた名前をつけてやったので、名前は「ジャック」。誰にも懐こうとしない野犬のジャックと触れあううち、ローガンはジャックのことをかけがえのない対象だと思い始めてくる。だが、そのころローガンたちの住むオレゴン州に犬の伝染病が広まっていた。犬から犬、そして犬から人へと広がっていくこの病気の治療法はどこにもなく、犬の訓練士がヒステリックに犬を殺してまわるなど、人々はパニックに襲われていた。野犬であろうと、誰かの飼い犬であろうと、犬とみれば殺しにかかる人々。ローガンはジャックを守ってやらねばならないはずだが、あることがきっかけで遠く離れた矯正キャンプに入れられてしまう。矯正キャンプになじめず、脱走を試みるローガン。一方、自分を大切にしてくれた少年を追って家を逃げ出すジャック。病にも人々にも追いかけられたふたりは無事に逃げのびることができるのか?
親とも学校ともなじめない少年と、孤高を守って生きてきた野犬。さびしい魂が出会ってともに成長していく……には、時期が悪すぎた。物語は広まりつつある伝染病、それに伴う人々のパニックを描いて、否応にも盛りあがってゆく。犬好きもそうでない人も、手に汗を握りつつ読むことになる作品。命がけの逃走のラストをぜひ。
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