ゆっくり、じぶんでものを考えること、それが、わたしにとって、どんなに、だいじだろう。
「キューポラのある街」 早船ちよ 講談社
ジュン。キューポラのある街の中学3年生として登場し、貧しさの中で学ぶことと仕事をすること、「労働の中から学ぶこと」を考えていく少女。定時制高校に通いながら、昼間の学生にはぜったい負けたくないとガリガリ勉強をしていたジュンは、けれどいつしか、労働に結びつかない勉強をしてなにになるのか、と考えはじめる。
青い嵐の時代、学生運動に身を投じていく若者たち。思想と行動の自由を求めて、ジュンの親友ノブ子も大きく変わってゆく。長髪禁止反対、学力テスト反対、高校生の恋愛について……彼らは自分たちで話し合い、大きな壁に立ちむかってゆく。「高校生の集い」「屋根裏の大学」「あしたの大学」と名を変えても、いつでもそこは労働と学ぶことを深く考える者たちの集まりだ。
いまの自分たちの生活とはあまりにかけ離れた時代の話だと思うだろうか。たしかに、登場人物の中で、ノブ子の一家だけがほとんど現代のわたしたちと同じようなレベルの暮らしをしている。お金に困らず、大学に行くことを当然と考え、たまに映画を見たり旅行にいったりすることのできる余裕。けれど、ジュンをはじめとする他の登場人物たちは働かなくては生きていけない。学ぶために働いているのか、働くために学ぶのか。
彼らはそのことを生活そのものの中からつかみとろうとあがき、ときには闘ってゆく。そのことがすぐにはぴんとこないかもしれない。けれど、ジュンと一緒に悩み、考え、ときにはぶつかっていくとき、ノブ子が自分とは遠い生活だと思っていたジュンたちの仲間に身を投じてゆくように、いつしか深い共感を得ていくことになるだろう。
いや……共感だけではない、反感もあるだろう。それが正しい読み方だ。ジュンたちの仲間に加わって自分の意見を叫ぶこと。「未成年」のうちにぜひ読んでもらいたい。彼らが闘い、得ていったもの、失われたものを、ぜひ等身大の季節に感じてほしい。
最後に、「未成年」と「赤いらせん階段」の「まえがきに代えて」を抜粋しておく。
未成年者は、 未成年者は、
見るな、 みよ、美しい虹を
読むな、 読もう、ロマンスを
聞くな。 耳を傾けよう、風と陽のささやき
そして、 そして
ものをいうな。 せいいっぱい歌おう
―――― ! 遊びの歌を―――
「未成年」 「赤いらせん階段」
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