「ねえ。おじちゃん。おじちゃんもほんとうは、きつねでしょう? ぼく、そんな気がするよ」
        
「ふうたの雪まつり」(「車のいろは空のいろ」)あまんきみこ 講談社

 空色のタクシーの運転手、松井さんの車にはいろんなものたちが乗ってくる。にこにこと元気なきつねの兄弟、逃げ出したモンシロチョウ、山ねこのお医者さん、人におわれて人になった熊……。なにより、松井さんにいちばん近いのはきつねたちだ。なにしろ、松井さんはキツネコンクールで、だれよりも上手に化けているといって一等賞のあぶらあげをもらってしまうのだから。
 松井さんはほんとうにきつねなんだろうか、それとも? これはわたしの子どものころからの疑問だった。そんなのどうでもいいから物語の世界を楽しめば、というのはおとなの台詞。子どもには(そしていまでも)、これは大きな大きな問いなのだ。だって、そうでしょう? きつねの兄弟と笑ったり、道を曲がってふしぎな空間へと行けることが、松井さんがきつねだから、なんていう理由だったら……ちょっと残念だ。それよりも、松井さんが人間であってもきつねに近い存在であると考えたほうがよっぽどいい。それならば、もしチャンスさえあればわたしだって、と思えるから。
 手元の本には他に、「きつねみちは天のみち」「とらうきぷっぷ」の二編が収められている。ひとりでおるすばんをするあきこちゃんの気持ちがよくわかった、かぎっこだった子どものころを思い出す。「とらうきぷっぷ」でチョコレのガラスの胸がこわれてしまったときのこうたの哀しみは、いま読んでも胸にせまる。孤独な子どもたちが描かれている、せつないほどにさびしくやさしい本だ。



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