「そうよ。さしずめ、あたしにとっては黄金伝説ってとこね。でも、えてして伝説には一抹の真実が含まれてるものじゃなくて?」
「クレオパトラの夢」 恩田陸 双葉文庫
外資系の製薬会社に勤務する神原恵弥。ひさしぶりに日本に帰ってきた彼は、家族会議の結果、不倫の恋に走って北国H市に住む双子の妹、和見を連れ戻しに行く役を仰せつかった。寒さが大の苦手な恵弥はぶつぶついいながらも、数年ぶりに雪の中で妹と再会する。だが、和見は恵弥の訪れには何か裏があるのではないかと疑っていた。その直前に事故死していた妹の不倫相手、若林博士が恵弥と連絡を取っていた節があるからだ。「クレオパトラ」。残されたその言葉は何を意味するものなのか? 和見は恵弥を疑い、恵弥は和見を疑う。さまざまな思惑や駆け引き、隠ぺい工作や偽装工作。自らも謎めいた存在である恵弥が北の国を舞台に驚異的な記憶力や表面的な人懐っこさを武器に駆けめぐる。
三十代半ばにしてワールドワイドな有名人となったウイルスハンターの神原恵弥。彼が動くだけで、動いてしまう……動かされてしまう人々も、いるのだ。物語は「クレオパトラ」の謎をめぐって、恵弥たち兄妹、和見の不倫相手の妻、その友人……とさまざまな人々を巻き込んで繰り広げられる。
といっても。これはやっぱり恩田陸でいうところのおしゃべり小説。彼なりのしたたかさでもって女言葉を用いている神原恵弥の過去の恋愛話(!)がほじくりかえされたり、緊迫した場面にそぐわないほど現実離れしたおしゃべりが続く。とはいえ、恩田陸にしてはラストがちゃんとまとまっている(褒め言葉です! 一応)。肩透かしはない作品なので、その点ではオススメ。ちなみに同じ神原恵弥が登場する「MAZE」を読んでいなくても話は通じるが、一応そちらも読んでおくと、名前だけで登場する満の人となりなどがわかっておもしろいかもしれない。
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