「クリスマスやねんのに、プレゼントがあれへんやったら気分出えへんやないか」
カーペットの上にうつぶせの姿勢でジョーはそう言った。
「ほんになあ、貧乏はつまらんよってに」
「パウダー・スノー」(「首輪物語」所収) 清水義範 集英社
チワワ族は体の小さな種族である。
――から始まる「首輪物語」は、当然のごとく「指輪物語」のパロディである。黄金色の首輪を引き継いだチワワ族のモカカが、魔法使いのナンダレヤの後押しを得て、友人のジョンとショコラと旅に出る。途中、さまざまな困難があるのだが、その困難すら、
「だってそれが、典型的ストーリー展開ってもんだよ。噛まれると死んでしまうんだが、どこかに解毒剤を持っている者がいる、という設定で、噛まれねえわけがねえ」
というわけであって、噛まれると死んでしまう相手に噛まれ、解毒剤を持っている者に助けられながら旅は続く。
この調子で「ティンカー・ベルの日記」では「ピーター・パン」をティンクの視点で描いているし、「亀甲マン」はスーパー遺伝子を持つ大豆を食べ、スーパー遺伝子を持つ亀に噛まれた少年が、指先から納豆の糸を出して空を飛び、亀甲マンとなって人々を助けるが幼なじみとの恋愛には初心……という「スパイダーマン」パロディ。その他、「あこや貝婦人」だの「ハートブレイク・ツアー」「プロフェッショナルX」といった、小説に限らない、テレビ番組のパロディなどもあり多種多様。
それにしたって、「若草物語」(実はそれだけではなく、複数の物語が混ざっているのだが)を関西弁で……というのには、笑えた。いま読売新聞朝刊で「日本語の現場」という連載があるのだが、オペラやミュージカルに関西弁を取り入れるという試みがあるらしい。本音でずばっという雰囲気を出すときには関西弁が適しているし、それだけで笑いがとれるとか(ただし、蝶々夫人を関西弁でするのは困難……方言には悲劇が似あわないそうだ)。確かに、貧しい中でも力を合わせて生きる健気な四人姉妹……の話が、関西弁で語られると、妙にしぶとい感じがある。
とにかく、オススメの短編集。どれをとってもハズレなし。ひさびさに気持ちよく笑いました。
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