次の日の夜も三人は読み続けていた。屋外には春の嵐が吹き荒れていた。風が音を立てて庭の草木の葉を吹き千切っていった。
          
  「耽読者の家」(「壊れかた指南」所収)筒井康隆 文藝春秋

 身渡治郎は伯父から遺産として古い立派な家と、読みきれないほど大量の本を残された。金を稼ぐ必要もなく、ただひたすら本を読み続けていた治郎のもとに、大学時代の後輩、論人が遊びに来る。本好きの論人はたちまちこの家の虜となり、ふたりは日常生活を送るための簡単な約束ごとだけを決めて、静かに本を読み続ける。話すことも、本のことだけ。そこに治郎の従妹という稲子が加わり、今度は三人で本を読む。それぞれ異なった本を読み、たまには互いによいと思われる本を勧めあい。そうして彼らは静かに平穏な日々を暮らす。
 短編集。
 この本の目次を見てもらうとわかるが、目次1ページめはタイトルだけがずらっと並び、次のページには「ショートショート集」と銘打ってタイトルが並ぶ。しかも、目次1ページ目の最初、つまり一番最初の話は「漫画の行方」、次が「余部さん」で、これは作家を主人公としたものである。……ということで、実は最初のいくつかはエッセイで、次がフィクションだと思って読み始めたら、最初からとんでもない話で、実は三話目にたどり着くまで、ほんとうに筒井康隆が壊れてしまったのかと思った(ほんと)。だが、そういうことはなく、全部がフィクションである。念のため。
 筒井康隆風のナンセンス小説だけではなく、淡々とした日常を切り取った話もいくつか含まれている。強烈さ、という点では物足りないかもしれないが、その分、手堅い短編集となっている。



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