ひとつの絵があり、それを描いた画家についての、よく知られたエピソードがある。そのとき鑑賞者は無心になれるものだろうか?
「怖い絵」 中野京子 朝日出版社
上記に続いて著者は書く。「それは無理だ」と。
「怖い絵」と題されてはいるけれど、この本に取りあげられたのは夜や闇、死体や血糊、悪魔や怪物…… そういうものを描いた絵ばかりではない。舞台の上の踊り子、微笑む可愛らしい少女たち、胸を張って立つ王の肖像画。知らなければ見過してしまうかもしれない、否、もしかすると知らなくても漠然と恐怖を感じ、その恐怖の出所に自分自身首を傾げてしまう……そんなものが中心となっている。それは画家のうちにひそむ妬みや悪意あるいは恐怖。画家自身は意図しない世の中の流れや生い立ち、死の予感。
20枚の絵について、時代背景や画家の生涯を絡めて紹介してくれる一冊。
これまで素通りしてきた絵の中にひそむ恐怖に気づいたとき、そこには新しい世界が広がっている。
難をいえば、見開きになった絵は綴じてある部分が見えにくいのと、もう少し大きくないと紹介されている部分が見えない、なんて場合あるところか。絵だけ折込で大きなのを入れてくれるとか……いや、実際に紹介されている絵を画集か美術館で見たほうがよいのだろう。美術館にいきたくなった。きっと他にも、恐怖を感じる絵はあるに違いない……
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