「どういったらいいのかな。こんな悲惨で残酷な状況の上にも、輝くばかりに美しい鳥が飛びまわっている。それを見ていると、勇気が湧いてきた」
「コウノトリの道」 ジャン=クリストフ・グランジェ(平岡敦訳)
10年間の努力の末、歴史学の博士号をとったばかりの「ぼく」、ルイ・アンティオッシュは32歳。実用という点からはまったく無価値な学問を10年続けた結果、もっと実用的な仕事をしよう、生きている実感を感じられる仕事をしよう、としていた彼に与えられたのは、養父母に紹介された渡り鳥の研究家、マックス・ベームの手伝いだった。秋にはアフリカに飛び立ち、春になるとヨーロッパに戻ってくるコウノトリが、今年に限って戻らなかった。しかもそれは、マックスが研究のために足輪をつけた鳥ばかりだという。いったいコウノトリに何が起こったのか? 調査のためにアフリカへと向かう約束をしたルイだが、出発の直前、コウノトリの巣の中で無残にも殺されているマックスを発見する。そして、マックスの所持品の中には思いもかけない残酷な写真の数々が。コウノトリの研究という表向きの顔の裏に、マックスはどんな顔を隠していたのか? そして、調査の末に見えてきた真実とは。
東欧、中東、アフリカ、と、ルイが行く先々で奇怪な殺人事件が起こり、ルイ自身も命を狙われる。ルイ自身も過去の記憶が一部欠けているという謎めいたところがあり、いったいどこがどう絡んでいくのか……最後になるまで目が離せないことうけあい。
「クリムゾン・リバー」の作家のデビュー作。やはり残酷な描写は多いのだが、ルイの性格のせいだろうか、それほど悲惨な感じもしない。救いのない話は苦手だ、という人も読めると思う。
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