「大声を出さないで、目が覚めてしまうから」
              
 「目を擦る女」 小林泰三  早川書房

 隣の部屋に引越しの挨拶に行った操子は、そこで、この世界は自分が見ている夢なのだ――という女性、八美と出会う。八美によれば現実の世界は崩壊しており、彼女は廃屋の中に隠れ、そこで平和な世界を夢見ているのだという。現の世界での操子は苦しんでしにかけている。でも、わたしが夢見ている限り、ここにいるあなたは幸せね……最初のうちこそ八美のことを不気味に感じていた操子だが、いつしか八美の世界と同調しはじめ、そして……――
 短篇集。
 表題作である「目を擦る女」には、ものすごくツッコミたくなるような(おそらくは作者のミス)があるのだが、まあそれはさておいても、不気味な話は面白い。この短篇集の中には 「刻印」のように不気味なのにバカっぽいという微妙なバランスで成り立った話もある。だって、世界中が大騒ぎしているエイリアンが自宅のトイレに隠れていて、しかもそれが巨大な蚊の姿をしていて、その蚊でもあり女性でもあるエイリアンと愛しあって……という、ちゃんとオチにつながる複線まで書き込まれている、このバカっぽさと不気味さと論理的な構成の妙がなんともいえない。
 と思っていたら、解説で納得。
「とても頭のよいどアホウが、大胆かつ緻密に本気で冗談を仕掛け、残酷で美しい詩を描く――これが小林泰三である」そうだ。
 ナットク。 



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