誰の痛みもわからなかった。何も知らなかった。
今はすこしだけ、わかるよ。ひとが生きることの、軽さも、重さも、弱さも、おかしさも、いとしさも。
「困ってるひと」大野更紗 ポプラ社
福島県の山奥に生まれ、上智大学でおフランス語を学び、大学院でビルマの研究をしようとしていた、マドモアゼル転じてビルマ女子。体力勝負のフィールドワークにもせっせと出かけ……ていたはずが、ある日突然、原因不明の病で動けなくなる。これはいったい、なんの病気だ? かくして、首を傾げるお医者さんに麻酔なしで皮膚を切り取られ、わけのわからない薬を飲まされ、あらゆる病院、あらゆる科をたらいまわしにされる。手足は潰瘍だらけ、熱は下がらずつねにインフルエンザ状態、関節はガチガチで動かない……もうダメだ、と思った最後にたどりついた病院で、ようやく病名が明らかになるが、それはいつ治るともしれない難病(しかも2つ!)だった。
とはいえ、これは闘病記などではない。もちろん病気にまつわる話が主になるが、闘病記というには、あまりにも軽快に、明るく進む。状態は最低なので、死にたくなったりもするし、ウツになったりもするのだが、
まあ、万が一そうなれば……ちょっとまたラウンドアップ自決、山手線飛び込みなどを検討せざるを得ないかもしれない。まさしく致命傷。笑いごとではないが、とりあえず、あはは、と空笑いでも飛ばしておこう。
死をも考える瞬間が、こんな文章で綴られる。
そして、ふと自分の状態が、研究対象だったビルマの難民と非常によく似通っていることに気づく。医療難民。そして、支援依存。
彼女はもちろんイマドキの女の子。病室に持ち込んだe‐mobileを駆使し、病状や検査に妄想ぐるぐる状態になっておびえ、泣きわめき、医師に叱られ、それでも、封じ込めていたはずの恋愛感情が生まれたら、彼とデートしたい、ただその一念で退院を決意する。
なにがどう転がって、彼女と同じ状況になるかは誰もわからない。なにがあっても「絶望は、しない」と書く彼女の強さに、いつしか引き込まれていることだろう。オススメ。
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