「歌だからしっぱいしたんだよ。これが"ヒト"だったらどうだろう」
「ヒト?」
               
「こどもの一生」中島らも  集英社文庫

 瀬戸内海に浮かぶ小さな島で、MMM――精神的治療を行う施設があった。視察にやってきたはずの男ふたり、傲岸な会社社長の三友と、その秘書柿沼は、いつのまにかクライアントとして、他の三人の男女とともに、MMMクリニックで院長の治療を受けることになった。五人は催眠術と投薬によって、十歳になって、こども時代をやり直すことになる。だが、こどもになっても三友=みっちゃんは意地が悪く、こどもたちはあまりのみっちゃんの横暴ぶりに、仕返しをたくらむことにする。それは、みっちゃんの知らないことを他のみんなが知っていて、みっちゃんを仲間外れにする、というものだったが、最初の作戦は失敗。みんなが即興で作った歌にすぐついてこられるほど、みっちゃんの歌が上手だったからだ。そこで次に考え出したのは、架空の人、「山田のおじさん」をつくりあげ、みっちゃん以外のこどもたち共通の知識をひけらかしあう、ということだった。当初乗り気でなかったかっちゃん=柿沼も、みんなに押されて仲間に入るが、その遊びは徐々に怖いことに……
 B級ホラー、と中島らも本人が書いているが、後半三分の一が、前半の笑いとは打って変わった気持ち悪さ、ぐちゃぐちゃ血みどろになっていく。とはいえ、やはりこれの怖さは、架空の人が実在してしまう、というところにあるのだと思う。いじめのために作り上げた架空の人が存在する。遊び半分で決めた口癖も、ありえないからこそ面白かったエピソードも、すべて自分のものとして。
 この「こどもの一生」は芝居のノベライズでもある。これを舞台でみたら怖いだろうなあ……



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