「ほんとうは美津子と初子ちゃんはね、生まれたときに病院で間違えられたの。美津子のほんとうのお父さんとお母さんは、初子ちゃんのお父さんとお母さんなのよ。だからね、美津子が一年生になる前に初子ちゃんと取りかえっこしないといけないの」
       
 「ねじれた絆」 奥野修司 文春文庫

 「赤ちゃん取り違え事件の十七年」という副題がついている。沖縄で起きた赤ちゃん取り違え事件を丹念に追ったノンフィクションである。なお、実際にはそれからさらに七年後が書き下ろされているので、実に二十五年間、ふたつの家族を追いかけたことになる。
 小学校にあがる前の血液検査で出生時の取り違えがわかったふたりの少女。美津子と初子(のちに真知子と改名される)。犬や猫の子じゃあるまいし、簡単に取り替えられるものじゃない。この子こそがわたしたちの子どもだ、実の子だからといって会うのはやめよう、取り替えるのはやめよう――そう思っていたはずなのに、実際に会ってみれば、血のつながりの明らかな顔立ちや仕草に胸は痛み、早いうちに取り替えれば子どももすぐに慣れる、という以前の取り違え事件の家族の言葉で取り替えに同意する二家族。しかし、彼らが住んでいたのは沖縄という狭い場所であり、子どもでもバスで20分もしないで行き来することのできる近さだった。週末ごとに育ての親のもとに戻る少女たち。しかし、二家族それぞれの違いが、彼女たちを一方の家に引き寄せていくようになる……
 これは、どちらかといえば美津子と、美津子の育ての親である智子が中心となった話である。体当たり的な子育てを精一杯の愛情を傾けてする智子に、実の娘である真知子(初子)も次第に母親であることを認めて甘えはじめ、育ての娘である美津子も、なかなか相手の親にはむかわず、智子を慕い続けてしまう。実際、美津子の実の母親は若い男との夜遊びが好きで子育てにはまるで無関心だったのだから、それも仕方ない部分がある。そして、成長した美津子はさびしさの中で、「わたしには二人の両親がいる」と語っていた少女時代から脱皮し、ただひとりで生きていく道を選ぶ。
 少女が、親を捨て、ひとりきりで生きていくことを選ばざるをえなかった寂しさと強さ。家族とは、血と情とは。考えることの多い作品である。



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