前田の目が開いた。どこか広い世界へと続く扉が開くように、前田の目が開いた。
 そのとき俺は、ひかりを感じた。
             
 「桐島、部活やめるってよ」 朝井リョウ 集英社

 バレー部キャプテンの桐島が、部活をやめたという噂が流れ、桐島とおなじバレー部の部員や、彼らと同じクラスの生徒たちの中に、さまざまな思いがわきおこる。野球部やブラスバンド部、女子ソフトボール部、映画部。それぞれに精一杯、部活動に打ち込んでいたり、部活よりももっと楽しいことをしようとしていたりと、彼らの立場はさまざまだ。いまこの瞬間だけが楽しい、楽しければいいと思っているから、基本的には他人のことなんて気にならないし、目立つ子、クールな子、カッコいい、可愛い子以外は問題外。学校の中は、カッコいい、普通、カッコ悪いということでくっきりと区分けされていて、桐島は、その中でもカッコいい部類のはずだったけれど……桐島はこれから、どうするんだろう。部活をやめてしまって、ほかに何か打ち込むことがあるんだろうか。桐島は部活をしていたとき、どうしてあんなにきらきらしていたんだろう。自分は、桐島のようにもし部活をやめてしまったら、いったいどうなってしまうだろう。小石から広がる波紋のように、桐島が部活をやめたということで広がっていく不安な気持ち。
 どこか斜に構えて、かっこつけている子たちばかりではなく、カッコ悪いと思われていて、学校の中では肩身が狭く、それでも自分たちだけで打ち込めるものをもった少数派の姿をも描いていることで、広がりが出ているのだと思う。そしてまた、そんな風におとなしくてまじめで、肩身が狭く生きている子からみたクールな生徒にも、悩みがないわけではないのだと、そんなことも伝えている。
 高校生にとって、部活動は生活の中の重要な一部分だ。一人の生徒の退部を軸に描かれる青春小説。いろんな視点から描かれているということで、湊かなえの小説などが好きな人にも読みやすいかもしれない。



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