「代金、いいんですか」
 リナがきくと、
「いいの。いまごろあの学生さん、本にむちゅうになって、ほかのことなんて頭にないわ。わたしは、そんな人にしか本を売らないの」
 と、ナータはきらきらした目でいった。
       
「霧のむこうのふしぎな町」柏葉幸子 講談社

 ある年の夏休み、リナはお父さんにいわれて「霧の谷」をたずねてやってきた。けれど、ようやくたどりついた村のおまわりさんに、霧の谷なんてなく、銀山村というだれも住んでいないところならあるといわれたリナ。とにかく銀山村にいってみよう、と山道をのぼったリナの目の前にはいつしか霧がながれ、そして……
 リナが滞在することになった霧の谷の「気ちがい通り」、そこにある店も人もまた変わっている。中でもわたしが好きなのは、古本屋のナータ。「むちゅうになってたいせつにしてくれる。それがわたしへの代金」というナータ。ナータの店にある本はどれもこれもみな魅力的で、いつかどこかで手にした本、いつかどこかできっと出会うはずだった本であふれている。
 ナータは本の魅力について、こう語る。
「本って人をひきつけて、その人に影響をあたえるってことがあるでしょう。その力のことよ」と。わたしもいつか、霧を抜けてナータの店にいってみたい、そう強く思う。
 もちろんこの他にも、魔法でせとものに変えられてしまっていた王子さまや、お面を外さない男の子、あまいものの好きな小鬼などすてきなキャラクターが満載。「はたらかざる者食うべからず」が信条の、いやみなピコットばあさんまでも、魅力的だ。



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