「落ち着いてじっとしていれば、クマのほうが、あなたから逃げていくでしょう」
 あなたから逃げていくでしょう……。
 あんまりじゃないか!
    
「キリンと暮らす クジラと眠る」  アクセル・ハッケ作・ミヒャエル・ゾーヴァ絵(那須田淳・木本栄共訳) 講談社

 アカデミックな博物学に対して、「情緒あふれる博物学、繊細な感性によるハートフルな博物学をうちたててしまおう」という考えのもとに書かれた本。
 ぬいぐるみのクマちゃんとともに育った日々を思い出し、そうだ、大人になったいま、やっぱり大人になったあいつと会ったら、さぞおもしろいだろうなあ。でも、巨大グマと化したクマチャントハ、いったいどうやってつきあえばいいんだ? そう思って『人とクマ/そのフェアな共存のための入門書』をひも解いたときの作者「ぼく」の感想が、冒頭の一文。
「あんまりじゃないか!」と。
 彼はときに動物の身になって考える。
 拒まれても拒まれても人間に近づくことをやめないゴキブリに対しては、こう書いている。
「それにしても、ゴキブリほど人間に近づこうと絶望的なまでの努力を試みてきた生き物が、ほかにいただろうか? そしてこの生き物が人間へかたむける愛、しかもあそこまですげなく、憎しみをこめて拒絶される片想いが、はたしてほかにあるだろうか?」
「まさに破滅型の愛の典型といえるだろう」
 ゴキブリはともかくとして……キリンと一緒に暮らしたいなあ、とか、ゾウが犬くらいの大きさで、うちで飼えるようだったらいいなあ、とか。そんなことを一度でも考えたことのある人は、ぜひこの本をひらいてほしい。空想と現実のあいだで動物たちと遊ぶことの楽しみを、じゅうぶんに堪能させてくれる本である。



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