目をつぶると、アリレザのことが思い出された。お金があっても、彼は幸せそうにはみえなかった。
"じゃあ、ぼくは幸せだろうか……"
「運動靴と赤い金魚」 マジド・マジディ脚本(青林霞編訳)角川書店
1977年に種々の賞を獲得、第71回アカデミー賞外国語映画賞にもノミネートされたイラン映画である。表紙を見て「脚本」というからちょっとどきどきしてページを繰ったが、小説のかたちをとっており読みやすい。
イランの貧しい兄妹、アリとザーラ。低賃金に苦しみ、家族を養えない自分に傷ついている父と、病身の母親。幼いながらも家族の窮状をよく知るアリは、父親の誇りとなる息子であるために勉強に励み、学校でも優秀な生徒として認められている。ところがある日、アリは修理のために靴屋に持っていったザーラの靴をなくしてしまう。
けれどザーラの靴はそれ一足なのだ。アリにも余分な靴などあろうはずもない。家庭の苦しさを知るアリは靴を無くしたことを告白できず、自分の靴をザーラと交替ではくことにする。男の子用の、しかもぶかぶかの運動靴を我慢してはくザーラの哀しみと、アリの苦しみ。そんなある日、アリはマラソン大会の三等賞の副賞が運動靴であることを知る……アリの純真で一途な行為のこのクライマックスは感動的だ。
貧しいものと富めるもの。その不公平をしっかりと描きながら、けれどここには富めるものの忘れてしまった「なにか」がある。豊な国に暮らしているわたしたちが考えなければならないものを、この本が教えてくれたような、そんな気がした。
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