この作品を読んで、最後までふやけたような、変な感覚が抜けないのは、作者が思いついた奇妙なアクロバティックな殺害方法にこだわる余りに、その準備手続きに手間をかけすぎたこと。そんな手間がとれるなら、殺す方法がもっと簡単にあることを見落としていることにある。
                                
    「キムラ弁護士、小説と闘う」 木村晋介 本の雑誌社

 と、キムラ弁護士が書くのは『硝子のハンマー』(貴志祐介)。
 この調子で、著者は弁護士としての知識や経験をもとに、さまざまな本を読んでゆく。
 例えば、湊かなえ『告白』。これは、4歳の女の子の死体が、S中学校のプールで発見されることから始まり、これが事故死として扱われる……というようなところから始まる。そのことについて、キムラ弁護士はこう書く。
 「少女の死体がプールに浮いていた。普通の病死ではない。自然死ではない。少女の死体は変死体である。まして児童を対象とした異常な犯罪が世間を震撼させている御時世。なにか犯罪に結びつく可能性のあるものがないか、周辺の捜査が行われてもいいはずだ。そうすれば、プール脇の犬の飼われていたうちの庭からは、「その少女がほしがっていたけれどもまだ手に入れていなかったはずの人形」が、不思議な装置をつけた状態で発見されたはずである」
 そしてそうなっていれば、この事件の捜査は当初から殺人事件として扱われ、結果として、この物語のような展開にはならなかっただろう……と。
 確かにその通り(笑)。
 というわけで、キムラ弁護士が、古今東西のミステリ小説を「弁護士」の立場から読む、という本。ここまで書いていいのかというほどにメッタ斬りしてしまう作品があるかと思えば、あまりの隙のなさに脱帽したり、ヘンなところはあるけど感動したからいいや、としてしまう作品もある。「1Q84」「悼む人」「図書館戦争」「ゴールデン・スランバー」「ハリー・ポッターと賢者の石」「ABC殺人事件」など、有名作品が多いので、知っている本のところだけを読んでも面白いかもしれない。
 ところで、キムラ弁護士、本の雑誌社、ときて、ピンと来た人もいるかもしれない。椎名誠のエッセイなどによく登場する「弁護士の木村」こそ、本書の著者であるキムラ弁護士。というわけで、椎名ファンの人もぜひ。




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