加害者とその家族の人格は別である、ということを承知の上で、私はこの父親の胸をつかんで振り回して、ドタマをかち割ってやりたい。
           
「殺ったのはおまえだ」 「新潮45」編集部編 新潮文庫

 思わず解説から引用してしまった。
 このノンフィクション集を読んで、すべての事件を「ああ、あれね」とわかるのはここ数年ではないかと思われる。それだけ、日々さまざまな事件が発生し、あれほどまでに残虐だと思われていたことさえ忘れられようとしているのではなかろうか。被害者の家族にとっては永遠に忘れることの出来ないものであっても。
 大阪「池田小」児童殺傷事件、尼崎「実子虐待」致死事件など、暴力、殺意をふるった加害者の生い立ちを丹念に追う一方で、「恵庭「社内恋愛」絞殺事件、埼玉「略奪愛」殺人事件など、冤罪の可能性、または他人の罪を被っている可能性のあるような事件をも追う。そしてまた、被害者の家族にまで踏み込んだ取材もある。
 両親が悪かったのか、育った環境のせいなのか、貧困や差別が原因なのか。
 ひとつひとつ丹念に追う取材であり、ときには加害者や加害者の家族にむけた怒りも率直に書かれている。しかし、結論は述べられない。判断は法でもマスコミでもなく、「世間」のひとりであるわたしたちが下すものだから……であろうか。
 それでも、事件の詳細を知ったことで暗澹たる思いにかられ、けれど、この気持ちをどう表現していいのわからない……と思ったときは、島村洋子の解説を、ぜひ。殺伐とした事件を思い返したくない、加害者の生い立ちや事件の詳細など知りたくない、というときにも、解説の部分だけはお読みいただきたい。この解説を読むだけで、もしかしたら自分の中の何かが動く、かもしれない。



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