きいちゃんは、きいちゃんとして生まれ、きいちゃんとして生きてきました。そしてこれからも、きいちゃんとして生きていくのです。
「きいちゃん」 山元加津子(多田順/絵) アリス館
小さいときに高熱が出て、手や足が思うように動かないきいちゃん。養護学校の宿舎で暮らすきいちゃんは、教室の中でいつもさびしそうにうつむいている。そんなきいちゃんが、うれしそうに声をあげて先生に報告した、おねえさんの結婚式。けれど、おかあさんはきいちゃんに、結婚式にでないでほしい、という。そのときのきいちゃんの哀しみはどれほどのものだったろう。
「おかあさんはわたしのことがはずかしいのよ。おねえさんのことばかり考えているの。わたしなんて、生まれてこなければよかったのに……」
はげしく泣きじゃくるきいちゃん。それでも、きいちゃんがいうように、おかあさんは本当におねえさんのことばかりを考えているような人なのだろうか。そんなはずはない。ただ、きいちゃんが結婚式に出ることで、周囲の人から冷たい視線を浴びるおねえさんのことを考え、おかあさんとしてもつらく悲しい思いできいちゃんに出ないで、といったのに違いないのだ。母親のつらい決断ときいちゃんの哀しみの中で、先生はきいちゃんにお姉さんへのプレゼントを作ることを提案する。
先生ときいちゃん、ふたりで夕日の色に染めた布。それをきいちゃんは誰の手も借りず、ひとりでゆかたにぬいあげる。まちがって針で指をさして、練習用の布がまっ赤に血で染まっても。そして、そのゆかたをおねえさんに贈ったとき……このあとのことは、ぜひ本を読んでみてもらいたい。
きいちゃんをきいちゃんとして受け入れること。そのことのすばらしさ、優しさを、この本は教えてくれる。
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