そうして "わたし"は はじまった
「きちきち四世」 遠藤望森 新風舎
なんとも不思議な絵本である。しかも文字だけを追っていくと、不思議なほどに哲学的だ。「わたしを呼び/願いをかなえろと/言ってくるやつら/その底に/ひそんでいる/問いかけ」
だれかがわたしを呼び、そうしてわたしははじまった……のだが、「殿下と呼んで刷り込みをしよう」という声も聞こえてくるし、これが実験なのかたんに遊ばれているのかもよくわからない。哲学的な思考を繰り返すわたしだが、その姿はトリだ。そう、右側の文章が哲学的なのに対して、左側の絵の部分は黒一色、しかも怪しげなトリたち(わたしと、わたしを殿下と呼ぶじい)が怪しげな会話を交わしている。考えていることは哲学的なくせに、絵の部分の台詞は「ねえ、ねえ、じい」とちょっと甘ったれ。そしてわたしそっくりの「じい」は、ちゃんと教育してくれるのかと思えばそうでもなく、曖昧なことを繰り返すばかり。どうもわたしは神らしいのだが、では「神とは?」
とにかく、ナゾの絵本である。このナゾさ加減は、読まねばわかってもらえないと思う。「じい」の正体には思わずのけぞってしまうに違いない……。
ブギー・ポップシリーズの「エンブリオ」になんとなく似ている。ぜひ一読を。
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