「生きてても虚しいわ。どんな偉いもんになってもどんなたくさんお金儲けても、人間死んだら煙か土か食い物や。火に焼かれて煙になるか、地に埋められて土になるか、下手したらケモノに食べられてまうんやで」
「煙か土か食い物」 舞城王太郎 講談社NOVELS
サンディエゴのERに勤務する「俺」、奈津川四郎のもとに、母親が何者かに暴行を受けて重体だという報せが届く。状況を把握できないままに飛行機に乗って日本へと帰国した四郎を待ち受けていたのは、母親が連続主婦殴打生き埋め事件の被害者になったという事実だった。警察の捜査方法を信じきれない四郎は、高校時代の友人の警察官や検事から情報を集め、犯人探しを開始する。
……と書くと、いかにも普通の犯人探し小説のようだが、これは違う。
饒舌な上にも饒舌な文体がこれでもかこれでもかと続き、犯人探しと並行するように、奈津川家の過去が語られる。威圧的で暴力的な父、丸雄と、一郎、二郎、三郎、四郎の四兄弟。中でも、女の子のように可愛らしい顔をしていた二郎は、ある日突如として苛められっ子から、凄惨な報復を繰り返す悪魔的に危険な人物へと変身した。その二郎と丸雄の陰惨な対決が描かれる部分は、あとになってよく見てみると大した量ではないのだが、印象としてはものすごく重い(が、それが犯人の謎解きにどう関係するかといえば……ほとんど関係はない)。
文体で読ませる、とでもいおうか。この手の饒舌文体が苦手な人はダメかもしれないが、わたしなどは、この人の他の作品も読みたい! と思ってしまった(が、その後、「世界は密室でできている。」「九十九十九」は途中で投げ出すほどに肌が合わなかった)。読み始めたらとまらないスピード感。四郎のジェットコースター状思考に巻き込まれた快感がある。
第19回メフィスト賞受賞。オススメです。
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